2017.4.9 15:06 [Sun]
星屑にさよなら
夕暮れの中、見慣れた後ろ姿を見つけ、ドキリと胸が高鳴った。期待していたわけではない。ただ、妙な胸騒ぎがして外に出たら偶然、女がいたのだ。
そう、偶然。
「あっ、シオンくんだ」
ふにゃりと顔を崩し、嬉しそうな顔をした。そんな顔をする女に腹立たしさを感じ、勝手に口が動いた。
「腹パンして欲しいんですか」
「いや、私、そんなこと一言も言ってないからね。私、死んじゃうからね」
焦りながらツッコミをする女が面白く、手首の関節をコキコキとわざとらしく鳴らせば女は更に焦りだした。
「シオンくん、シオンくん、落ち着いて」
「あっ、肩パンの方が良かったですか」
「ちゃうねん。そう云うことじゃないねん」
「何、下手くそな関西弁喋ってるんですか。全大阪市民に土下座して下さい」
「あっ、すいません」
我慢出来ずシオンの口が弧を描く。女はシオンの後に続き、嬉しそうに微笑んだ。
「相変わらず、貴女は馬鹿ですね」
「酷いなぁ」
自分より年下に馬鹿にされても女は、微笑むだけであった。
「今日ね、シオンくんに会いたいなって思ったの」
だから、何だと云うんだ。
女が、溶けてしまいそうな笑顔をシオンに向ける。
もう何も言わなくても、女の気持ちが伝わってくる。
死にそうになった。
「嬉しいな」
小さく溢した女の言葉をシオンは、聞き逃しはしなかった。
やるせない気持ちが溢れ出てくる。
それ以上、意味のない言葉に。何も孕まないことに。
馬鹿な癖に。
時折見せる大人の余裕に、シオンは女との距離を思い知る。
「シオンくん、帰ろう」
空に星が浮かぶ。
女と肩を並べ、歩き出す。
「シオンくん、」
女と永遠に肩を並べ、歩いていたかった。