2010-6-24 23:55
「今日は雨……か」
サラサラと空から流れるは水。
6月。
梅雨入りした江戸には休む暇もなく雨が降り注ぐ。
そのせいで街はすっかり静まり返っていた。
道満は晴明の部屋の縁側から、空の涙を見つめる。
道満の隣には晴明が、無表情のまま雨を見ていた。
「………」
「…今日の予定はまた後日にするしかないか」
「…!………」
そんな晴明を知ってか知らずか、道満が溜め息混じりにそう呟く。
実は今日、二人は河川敷の紫陽花を見に行く約束をしていた。
美しく咲き生える紫陽花を晴明に見せてやりたかったのだ。
しかし空の機嫌は一向に良くなりそうにはなかった。
「晴明、紫陽花は別の日にしよう。こんな天気では俺達まで濡れてしまう」
「………」
「聞いているのか?晴明」
未だ無言のまま雨とにらめっこをする晴明。
その晴明を見て道満は軽く溜め息をついた。
「……何処へいく。道満」
席を外そうとする道満を、不意に晴明が呼び止めた。
「何処って、巳厘野の屋敷に戻るだけだ。今日は雨が降って予定も中止になってしまったしな」
つまらなそうな口ぶりの道満。
そんな道満の腕を晴明が掴んだ。
「……晴明?」
「……ッ」
晴明が唇を噛んだのが分かった。
「……くな…」
「え…?」
俯いたまま、声を絞り出す。
「……行くな…道満…」
「!」
小さな声だった。
「…何故…ぬしが帰る必要があるのじゃ……」
道満の着物を掴む晴明の手が強張る。
いつもと様子の違う晴明に道満は僅かに戸惑う。
「…晴明…、」
「…わしを独りにするな……」
僅かに、晴明の身体は震えていた。
その身体に道満はそっと腕を添え、抱きしめてやる。
自分より幾分も細く華奢な身体が、小さく跳ねた。
「…そうだな。…すまない、晴明」
「……っ」
縋り付くように自分に抱き付いてくる晴明を、道満は愛しく思った。
「………紫陽花…見に行きたかった…っ…」
「…あぁ、俺もだ」
「…だから…その代わりにわしの側にいろっ…」
溢れ出る自分の気持ちに素直になりながら、道満に擦り寄る。
晴明の気持ちを真っ直ぐ受け止める。
「…今日はずっと一緒だ。晴明」
「………馬鹿者」
小さく呟く晴明の額にそっとキスを落としてやった。
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梅雨をメインにした道晴SSです。
急にデレた晴明兄様が書きたくて書いたものです。
でも何故か完成するのに10日かかったという…
早く本調子になれるよう頑張ります。
2010-6-9 21:33
「……ねぇ、万斉殿」
「ん〜〜…、何でござるか、鴨太郎殿」
「…そろそろ、どいてもらえないかな」
「何故でござるか?」
「な、何故って…その、膝が痛いし…」
恥ずかしいから。
そう小さく言うと万斉殿はくくっ、と喉奥で笑った。
「わ、笑わなくてもいいじゃないっ」
「ふふ、いや、すまぬ。頬を染める鴨太郎殿があまりに可愛くて、つい」
なおもクツクツと笑う万斉殿を、頬を膨らませて見下ろす。
今僕が万斉殿にさせられていること。
それは膝枕。
万斉殿のお誕生日。
どうしたら彼に喜んでもらえるだろうという思いから、手作りのバースデーケーキと粗品を持って彼のところへと押しかけた。
彼に直接聞いてみると、僕を見てこう言った。
『膝枕をしてくれ』と。
それで万斉殿に喜んでもらえるならと、恥ずかしい思いを振り払い、ろくにお誕生日のお祝いをしないまま了承しちゃったんだけど……
かれこれもう20分はこうしている。
「…万斉殿…、飽きない?」
「全然。」
むしろ超幸せでござるー、と僕の膝上でゴロゴロと甘えてくる万斉殿は、本当に幸せそう。
そんなに気持ち良いのかな?
僕の方はだいぶ膝が麻痺してきたんだけど……
でも、まぁいっか。
万斉殿に喜んでもらえるなら。
そう思ってしまう僕がいる。
何だかおかしくなって、僕は万斉殿の頭をそっと撫でた。
「ん…、鴨太郎殿…?何を笑っておられるのだ?」
「んーん、何でもない」
「気になるでござる」
「ひみつっ」
急に楽しそうに笑う僕を万斉殿が不思議そうに見つめる。
「それより万斉殿、これが終わったら早く万斉殿のお誕生日をお祝いしようね」
万斉殿の頭を撫でる手を止めずに万斉に話し掛ける。
「…あぁ、そうでござるな。でも、」
「…?」
「今はまだもう少し、鴨太郎殿の温もりに触れていたい…」
すっ、と伸ばされた万斉殿の大きな手が僕の頬に触れた。
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大変遅くなってしまい申し訳ございませんんん!!!
やっと書き上がりました、万誕SSです。
テーマは『膝枕な万鴨』。
幸せいっぱいの万鴨が書きたかったのです!←
読んでくださった皆様に感謝!
お粗末様でしたorz