スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

最近のこと

最近は専ら本ばかり読んでいる。
一時期、自分には珍しく映画やドラマを見ることが続いたが、今は本を借りてきては読み、買っては読み、積ん読になり果てた子たちを減らし、所持本を再読し、読みたいものの目星をつけている。

松尾由美の「ハートブレイク・レストラン」が当たりで、帯見たら北野勇作の文庫書き下ろしがあるではないか。
恐らく近くに並んでいたはずなのに、なぜ見落としたんだ?

光文社文庫のカバーデザインが変わり、シンプルでいいなと思う反面、あの紙の手触りがなくなってしまったのは残念だ。本によっては残してくれているのだろうか?でも新しいカバーの手触りも嫌いではない(のが困りもの)。

カバーデザイン一新で未だに残念かつ戻して欲しいと願うのは、ダントツ河出書房の文庫なんだけれども。あのメインの黄色…!黄色以外もあるが、以前の白×青系メインのデザインと他文庫にないあらすじの短さ、そして紙質の手触りが悔しい。本棚に並べて一番きれいに思えるのに、と。
せめて紙質残して、茶系にしてくれれば良かったんだが。

自分が持っている中で好きな文庫デザインは新潮社。無難な感じが。そしてプレゼントが。
ちくま文庫の統一性も好き。並べたとき賢くみえる。書店の一角のちくまのコーナーは落ち着く。(隣はアダルト、実用書のカラフルなカバーが並ぶことが多いが)
講談社は当たり外れがある。え、この人にこの色なの?という個人的な。カバー裏に理由とか載せて欲しい。当たるとそれ以外考えらんないくらいなんだけど。
文春文庫の色チョイスはきれい。角川は苦手でほとんど見ない。

文庫って持ち歩くからカバーが重要で、これからデザイン一新が相次ぐような気がする。

【創作】裏庭、十五

十五、再依頼


ロッカーに入っていたストールを見て、どきりとした。薄水色。初めての仕事以来、彼に呼ばれたことはなかった。

迎えに来た案内役も以前と同じ、黒革靴が埃ひとつなく鈍く光っていた。スモークの貼られた車に揺られ、連れてこられた部屋もまた、あの薄水色の空間だった。
案内役の彼は前と同じ言葉を僕に言い含めた。僕は頷き、ベッドの傍らに寄せられた長椅子に腰を下ろす。クッションを移動させその中に身を沈めたところで彼は部屋を出た。
薄水色の客に再び呼ばれるとは思ってもみなかった。前回の夜、仕事途中で眠ってしまったのだから。報酬は受け取ったが、あれで依頼を全うしたとは考えてはいなかった。
そして、後ろめたさもあった。僕は薄水色の客の息を止めたいと少しでも考えた。今、自分の首に巻かれているこのストールで締めたいと、そう思ったのだから。
かおるこ、という人への分からず湧き出た嫉妬心は僕の中で、どろどろとしたジェリーのようなものになっていた。

そっと、薄水色の彼の手を取る。干からびた、しかし水気と体温の残る手を握る。握り返す力は無く、指先は鉤形に曲がったままだった。
それでも小さく脈打つ血管に触れれば、彼が生きていることが分かる。

僕はただ彼の手を握り続け、何も考えないように彼の脈拍だけを数える。

その夜、薄水色の客は目覚めることなく、かおるこ、と呟くこともなかった。
夜が更ける。以前のように窓は開け放たれ、中庭の木々が月明かりに映えていた。手入れの行き届いた、魅せるための庭は静かな中に虫の声を響かせている。

うたの話

そのうたを聞くと胸がしめつけられる。

簡単に表せば、泣きそうになる、で、実際は泣かない。どうしてだか、上手く説明できないけど、うたを聞くと思う。

北へ行かなきゃ。

短い期間だけど北で暮らした。北にいた間はそのうたを聞く機会は減った。私はCDプレイヤーを持っておらず、唯一持っていたポータブルMDプレイヤーを一年足らずで接触不良にしていた。
そのうたには北へ、の文句は無く、北を暗示する言葉も無い。
北へ行こうと思ったのはそのせいだけではない。おそらく、小学校の頃からの暗示に近い憧れ、願望だったのだ。

北から失望と共に戻り、再び私はこのうたを聞いた。

走馬灯で巡るのは失ったものだけだった。得たものは捨ててしまったのかもしれない。失えば前に進めると、そう信じていたのかもしれない。
私は沈む泥舟だと思っていた。進むために積み込んだ荷物を全て棄てなければならないと思い込んでいた。抱えたままでは浸水し、溺れてしまうと。
だが、本当は棄てるのではなく燃やさなければならなかったのだ。燃料として消化するために積み込まれた荷物だったのだ。

下手ではないが、上手いわけではない。素人に毛が生えたうただ。音楽だけが巧みで、より一層胸を締め付けてくる。
今、このうたを聞くと思う。

西へ行かなきゃ。

南へ行く願望と妄想がある。南へ行き、私はすぐに戻ってくる。北へ行ったのと同じように。
だけれども西へ行ったら私は戻らないだろう。
呼ばれているわけではない。呼ぶ声も聞こえない。私が勝手にそう思っているだけだ。

いつか、私は西へ行く。
そして戻らない。
失うだけの泥舟を降り、太陽の沈む先を見る。抱えたものをひとつも棄てず、抱き合うだけの愛情を欲しない。

そのうたは救いがない。
そのうたは後戻りしない。
そのうたは終わりしかない。

ふいうち

…ユニコーンで泣く日が来るとは思わなかった!

正確には泣いてないけど。泣きそうになっただけだけど。

いろいろあるのが芸のこやし、芸人じゃないけど。
ちょっと整理したらフィクションにできるかなあ。今書くと生々しくなりそう。


〈叫んでも叫んでも空回り〉
ええ、そのとーり。
〈I miss you〉
思いのほかそうでもなくて、
〈You miss me〉
そうだといいなあ。

ごめんね。

【創作】裏庭、十四

十四、ジェリービーンズ


彼はしばらくそうしていた。墓石に向かい語りかけているようでもあったし、ただその白さに目を奪われているようにも見えた。
夕日が落ちきり、宵闇が広がる。黒や紺は風景に同化し、白や灰色だけが浮いていた。
僕の巻いている薄墨色のストールが淡くひかり、それ以外は空気に沈む。空間に溶けていくような錯覚を覚える頃、彼が動いた。

指切りの形に絡んだままだった小指が解かれる。そして供えられたジェリービーンズの袋を掴んだ。
両手で目の高さまで上げた袋を、彼は勢いよく破った。

袋は真っ二つに裂ける。
色とりどりのジェリービーンズが踊るように散った。

ジェリービーンズは蛍光塗料を塗ったかのように発色していた。赤、青、緑、黄、と毒々しい色合いが宙を舞い、墓石、花台、砂利、そこかしこに落ちた。

怖い、と思った。
切り取られたたくさんのカラフルな小指。

短く弧を描く菓子にぞっとした。小さく膝が震えだし、この場から逃げたくなるがそれもできない。
そのとき、ふっと空気が動いた。背中に暖かな何かが当たり、膝裏を抱えられてからそれが彼の手のひらだと気づく。
僕は目の前の彼の肩にしがみつく。僕の体は宙に浮き、彼にだけ支えられている状態だった。
ゆっくりと揺れ、白の墓石が遠ざかる。散らばった小指が見えなくなり、僕はほっと息を吐いた。


薄墨色の客は言葉少なく、ただ僕たちは触れ合った。手のひらの暖かさだけが僕たちの間にあり、彼は指切りに絡んだ小指にキスをした。
何度も何度も。
前の記事へ 次の記事へ