つづき
最初はWあいぼが王様におふぇらするキチった話でした(没)
「もう一人のボク!!」
黒猫に案内された先には、ぼろぼろのもう一人のボクがいた。そして、その傍らには、ボクそっくりのボクがいた。
「キミがもう一人のボクを怪我させたの!?」
ボクに似たボクはゆっくりと立ち上がって静かにボクに向きあう。その目は少し寂しそうだった。
「キミが、"相棒"…?」
向かい合うボクがボクに尋ねる。
「そうだよ!キミは誰!なんでこんなことをするんだ!」
だけど、その問いにもう一人のボクは答えない。
「遊戯!」
その時、風を切る音と共にデュエルディスクが飛んできて、ボクと向かいの彼はそれを受け止めた。
「語らぬ道化に情けなど無用!力で捩伏せ、魂ごと粉砕してしまえ!」
崖の上に立つ海馬くんの声に、ボクは、きっ、ともう一人のボクを見据える。
「いくよ!もう一人のボク!」
ーー決闘!!!
「ボクのターン!ボクは《磁石の戦士δ(マグネットウォーリアーデルタ)》を召喚!《磁石の戦士δ》の効果により、ボクは、デッキからレベル4以下のマグネットウォーリアーを墓地へ送る!さらに!魔法カード!【苦渋の決断】を発動!ボクはデッキからレベル4以下の通常モンスターを墓地に送り、同名カード一体を手札に加える!ボクが選んだカードは、《磁石の戦士α》!ボクは手札を1枚伏せ、ターンエンド」
「ボクのターン、ドロー。ボクは手札から《和魂(ニキダマ)》を召喚」
「スピリットモンスター!?」
スピリットモンスターは、エンドフェイズに手札に戻るカードだ。
「《和魂》の効果により、ボクは手札から《阿修羅(アスラ)》を召喚。バトルフェイズ…!ボクは《和魂》で《磁石の戦士δ》へ攻撃!」
「所詮雑魚の考えることか。攻撃力800のモンスターで攻撃力1600のモンスターに攻撃するなど…」
「《和魂》が破壊されたことでボクはデッキからカードをドローする!」
「…!」
「ボクは《阿修羅》で《磁石の戦士δ》を攻撃!」
「うわあっ!!」
「…カードを2枚伏せて、ターンエンド」
スピリットモンスターの《阿修羅》は彼の手札に戻る。彼のフィールドはがら空き。これは、攻撃を誘ってる?それとも…
「ボクのターン!ドロー!罠カードオープン!【マグネット・コンバージョン】!このカードで墓地のα、β、δを手札に戻し、ボクはこのカードを召喚する!いけ!《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》!マグネットセイバー!」
「永続罠発動!【量子猫】!このカードはプレイヤーが指定した種族・属性のモンスターカードとしてフィールドに特殊召喚できる。ボクが選ぶのは、獣族・闇属性。さらにダブルトラップ!永続罠【グラヴィティ・バインド】を発動!このカードがフィールドに存在する限り、レベル4以上のモンスターは攻撃ができない。よって《マグネットバルキリオン》の攻撃は無効となる…」
「…っ」
永続罠…量子猫とグラヴィティバインド…。どちらも守備を固めるカードだ。やっぱりはったり…?それともキミは、ボクに何かを伝えようとしてる…?
「ボクのターン、ドロー。ボクは、このカードを召喚」
「…っあれは!」
家で見た名前のないカード!!
「名前のないカードだと!?」
「ボクは魔法カード【強制転移】を発動。キミに、このカードを」
強制転移の効果は、フィールド上の自分と相手のモンスターの交換だ。だけど、彼の意図は…この、カードは……。
「彼らには、この場所が必要なんだ…」
ボクの姿をした彼はそういった。
「街に居場所がなくなって仲間はみんなここに逃げてきたんだ。そしたらここまで奪われそうになって…!それで!ボク、みんなのためになんとかしなきゃって…!」
自身の姿を変える量子猫、相手を縛り付けるグラヴィティバインド…。スピリットモンスターは神話を元に妖魔をモチーフにしている。その中で、人に化け、偽りの姿で人を惑わす、獣族・闇属性のカードは…
「キミは……《金華猫(キンカビョウ)》…?」
瞬間、目の前を光が覆う。
『…ごめんね、もう一人のボク』
小さく聞こえた謝罪に目を開くと、ボクの目の前に、はらはらと一枚のカードが降って来た。そのカードを掴む。
「やっぱり…」
それは、カード名とイラストが入った金華猫のカードだった。
「にゃあ」
ボクを案内してくれた黒猫がボクの足元で鳴いた。
彼はもしかして、この子たちを救うために…?
「海馬くん…」
ボクは崖の上の海馬くんを見上げる。
「生憎、愛玩動物にくれてやる餌も場所もない」
その言葉に、お願いを投げ掛けようとしたボクの言葉は、やっぱり海馬くんらしい言葉に遮られてしまった。
「だが望むなら考えてやらんでもない」
「海馬くん!!」
その時、ぐったりとしていたもう一人のボクが微かに呻く。
「磯野!至急ヘリを用意しろ!レスキュー隊もだ!」
海馬くんが携帯に向かって怒鳴る。
「もう一人のボク!!」
ボクはもう一人のボクに駆け寄って手を握る。
「相…棒…?」
僅かに開いたその目がボクを捕らえる。
「今度は本物…だな」
そうして笑ったもう一人のボクはボクに寄り掛かった。
「なんでこんな、無茶…」
傷だらけのもう一人のボクに涙が止まらない。
「…オレは、相棒に殺されるなら本望だぜ」
バカバカ!もう一人のボクはホントに大バカだ!!帰ったらぞうきんしぼりの刑なんだからね…。もう一人のボクは、力無く笑って再び意識を失った。
オレは、海馬の救急隊に救助された。軽い脳震盪を起こしたせいで精密検査を余儀なくされたが、持ち前の強運故か、怪我はどれも軽く、いくつかの打撲と擦過傷だけで済んだ。相棒にはかなり怒られたし、ぞうきんしぼりもされた。だが、これは相棒の心配分の痛みなのだと思うと、それすら愛しく思えた。
「そういえばあいつは」
病室のベッドで相棒と話しながら、金華猫の話を出す。すると相棒は、もうすっかり友達だよ!と金華猫のカードをだした。
「ね!」
すると、相棒の傍に半透明な相棒姿の金華猫が現れる。
『あの、ボク…』
自分の指を弄びながらもじもじと俯く精霊は、しおらしい相棒を見てるようで自然と顔が緩んでしまう。
『この姿でもいいって、もう一人のボクに言われて…』
そうか、相棒が許したのか。
『カードであるボクが行動起こせば何か変わるかもって必死で…』
本来違う姿であるはずのやつに相棒を重ねてしまうのは、魂の精練さが似ているからだろうか。
「よかったな」
相棒を支えるカードたちは、みな強い。その強さは相棒から受け継いだものでもあり、その強さは等しく相棒に還元される。これ以上完成された主従関係はないだろう。
『あのね』
そこで相棒姿のやつは、恥ずかしそうに俯き、そして、意を決したように顔をあげた。
『ボクも!大切なもの、もうなくさない、見失わないよ!』
そうしてオレの頬に口づけた。
「っ!?」
「なっ!!」
しゅんっ!と消える金華猫に、相棒が声を張り上げてコラあああ!!!!と怒っていた。オレは頬を押さえて、相棒(偽)のキスに放心してしまう。
「もう一人のボク!」
強く呼ばれて怒られるかと思い、お、おう!と居住まいを正す。が、振り返った相棒は怒ってるというより、どちらかと言えば悔しそうな顔をして、オレの元に戻ってきた。
「もう一人のボクはボクの姿してれば誰でもいいんだ…」
複雑な顔をする相棒の顔に手を伸ばす。
「そんなわけないだろ」
「だってまんざらでもなさそうじゃん」
「…今のはオレからは何もしてないぜ」
「あの子のお願いで死にかけたじゃん…」
「バカだな」
お前に惚れ込んでることの何よりの証明だろ?
「ンッ…」
後頭部に添えた手で引き寄せて唇を奪う。一度触れた唇が離れようとしたので再び引き寄せて角度を変えて口づける。
「っはぁ、も…人来ちゃ…っ」
キスだけでいっぱいいっぱいになってる相棒が可愛くておかしくて、調子に乗って頬に目尻にキスをしていく。相棒は恥ずかしそうに固まったままされるがままになっていた。
「相棒」
そのままオレは相棒の首に片腕を回し、ベッドに引きずり込む。
「わっ!」
バランスを崩した相棒がベッドになだれ込んで、オレはそれを上から見下ろした。
「おあつらえむきにベッドもあることだし」
「あ、あのもう一人のボク…?」
「教えてやるぜ、オレがどれだけお前を愛してるかをな」
「たっ、助けて、金華猫ーーー!!!」
その後、未開発の地域は、猫の森と名付けられ、手厚い保護の元、整備が進められた。そして海馬コーポレーションは、新手の猫産業に乗り出したことで株価が爆上がりした、らしい。
「にゃあ」
学校への通学路でボクはまたあの黒猫に会った。
「キミはいまでもこの辺にいるんだね」
ボクは黒猫をひとなでして、じゃあね!と立ち上がった。
「遅刻するぜ相棒!」
「あ、待ってよもう一人のボクー!」
その場に残った黒猫のゆらめく尾が二股に分かれる。本物の妖魔である猫の正体を知るものはいない。だが、その猫は空を見上げ、満足げに鳴いた。
おわり
おわりにゃあ