「夜中の二時、いきなり目が覚めたんです!」
羽床さんは声が大きい。夜中、の強調。
「暗闇のなかに、浮かんできたんです! 顔が!」
その顔、まさに憤怒の形相。恐ろしい顔の女であった。
「もう怖いし、どうしたらいいかわかんなくて、とりあえずこっちも目を見開いて口をへの字にして睨み付けたんです!」
なんでそうなる、と鐘子は……突っ込まなかった。
「そしたら、そいつ、消えたんです!」
羽床さん、ますます鼻息荒く。
「……勝ったわけね?」
「そうでもない気がするんです」
「どうして?」
「あいつ、消える瞬間に、吹き出しやがって!」
怒りのこもった表情に、思わず鐘子も吹いてしまう。
鐘子の後輩、羽床さんは十八歳。来年から華の女子大生である。
尚樹が三歳のころの話。
スーパーの駐車場、車のなかで、親の帰りを待っていた。
と、スーパーから出てくる見知った人影。
幼稚園の友人だった。だったが。
背が高すぎた。
どう見ても二十代。
他人のそら似にしても似すぎていた。
それから二十年。
尚樹が、車のなかで待っているのは鐘子の帰り。
スーパーから出てくる見知った人影。
幼稚園の頃の、友人の姿だった。