「子供の頃の記憶だし、自信はないけど」
平間さんは遠い目をする。
平間さんがほんの小さかった頃、近所には空き地があった。草がぼうぼうに生えただだっ広い空き地。
母親やまだ赤ん坊だった妹と遊びに来ることがよくあった。
「本当、何もない空き地だったんだよ。間違いなく」
「間違いなく?」
妙に力がこもったその一言を、鐘子は繰り返した。
「何もなかったんだよ」
ある日。
いつものように親子で空き地を訪れると、異様な光景が広がっていた。
コンテナ。
あまりにも巨大なコンテナが一個放置されている。
赤く錆び付いていて、口は上を向いている。
ぽかんと口を開けて立ちすくむ平間さんの手を母親が引いた。
その日以来、親子でその空き地を訪れたことはない。
「ふぅん。不法投棄かなにかですかね?」
「そうだったらいいけど、絶対おかしいんだ」
コンテナは、何十年も昔からそこにあったかのように運ばれた痕跡もなにもなくそこにあった。
また、空き地までの道は狭い畦道。あんな巨大なものをどうやって運んだのかわからない。
「何より、最近気付いたことがある」
「?」
「ときどき、ああいう巨大なコンテナって、いろんなところに現れてる気がするんだ」
明らかに、不自然に。
平間さんは首をふった。
件のコンテナはまだ放置されている。