この話を綴りだしてから、何年が経ったか。
鐘子も、いつの間にか二十七。
尚樹、詩春、フェル、姉の鈴子。
鐘子は今でも仕事に行く度に考えることがある。
「ふみ姉」とは誰だったのか。
幼かった頃、ふみ姉という人物が鐘子のそばにいて、両親の帰りが遅かった鐘子の世話をしてくれていた。
茶髪のショートカットで、革のジャケットを羽織って、よく大きなバイクでやってきた。それでいて、お土産はキノコやニンジン(それも泥がついた)と、だけど料理はからっきし。何から何までとんちんかんな人だった。
ふみ姉には、鐘子が見たことや聞いたことをよく話していた。だけど、彼女が誰だったのかは覚えていない。今や彼女と話す方法もない。
そんなふみ姉がいつも疑わずに聞いてくれた話を、最近はTwitterに投稿する。
鐘子の話が注目を浴びることなんてまずないが(せいぜいフェルが意味不明なコメントを返すくらいで)、時々、フォロー外からコメントがつく。
「嘘松」
鐘子のアカウント画像は、イヤミである。